頬に出来た傷をなぞると、ほんの少し血が付いた。後を引きそうな痛みに眉を寄せる。
「ってぇな、このやろう。ああ、くっそ風呂入ったら絶対滲みるじゃねぇか。どうしてくれんだ。」
そう吐き捨てながら睨み付けると臨也はなんとも言えない顔をしていた。いつもの胡散臭い笑顔が崩れ、苛立っているようなそれでいて悲しそうにも見える表情だった。
「化け物。」
臨也の顔にいつもの笑顔が貼り付けられた。俺には何が本当で、どうやってこいつを見ればいいのかわからなくなっていた。
「化け物。」
更に笑みを深くして臨也は言った。ああ、めんどくせぇ。俺は考えることを止めた。
近くにあった標識をひっつかみ投げつける。何事もなかったかのように、軽くそれはかわされ高らかに笑い声が響いた。
「何シズちゃん。気にしてんの。」
その笑い声がどこかかさついているように聞こえた。もう聞きたくない。俺にこれ以上余計なことを考えさせるな。声を掻き消すように俺は呼び慣れたその名を叫んだ。
未だ続く笑い声が黒髪を揺らす。どうも不釣り合いだ。ひたすら走りながら思った。
昔、新羅に言われたことを思い出した。『君と臨也は似ている。』聞いた直後はただただ不快で腹立たしかった。馬鹿馬鹿しいとさえ思った。
走りながらこちらを伺う目に何が映っているのか俺にはわからない。それでも、あいつの見ている世界は俺のいる世界と少しも変わらないものだということはわかった。そうでなければあんな表情はできない。
世界中の人間たちが飽き飽きしている日常から俺たちは疎外されている。
あの表情を俺は知っている。どれだけ逃げても孤独はどこまでも俺たちの傍にいる。
「諦めろよ。」
小さく落とされた言葉はどちらのものだったか。