平和島静雄がその光景に出くわしたのは偶然だった。
 十年来の敵である折原臨也が妹と手を繋いでいる。しかも手錠つき。行き付けのファーストフード店から出てきた途端それは目に飛び込んできた。
 臨也がいる。そう認識した瞬間に怒りや憎しみの感情のメーターが振り切れる、いつもは。しかし今日は違った。怒りや憎しみが増大するのはいつも通りだがその中に普段とは違う感情が混ざっていたのだ。静雄にはそれが何なのかわからなかったが。

 逃げようとして一度身をよじった臨也は両手の存在を思いだし、咄嗟に二人の妹を抱き締めた。
 静雄は驚いた。臨也がそんなことをするとは思わなかったからだ。常日頃から人間を愛しているだのと頭のネジがトんだようなことをいうわりに、臨也は人間を何とも思っていないようだった。平気で人間を貶め、そいつが苦悩し果てには自殺してもそれを笑って見ている。最低な奴だ。静雄は臨也が嫌いだった。そして臨也も静雄のことが嫌いだった。だから臨也の人間らしい面が見えたのが静雄にとって異常な事態だったのだ。

 「…」
 何も言えずに呆けていると、臨也がそっと目を開いた。こいつがこんなに俺に対して恐怖を抱いた目を向けたことがあっただろうか。静雄が高校時代まで考えを至らせたとき、双子が臨也を抱き締めた。
 「ごめんなさい静雄さん!臨兄がサイテーだってことはわかってるけど今は止めて!」
 「臨兄…疲…」
 臨也のことを必死に庇う双子を見て、静雄はいつもと違う感情の正体に気付いた。これは羨望だ。妹にこれだけ思われている臨也に対する。回路がそこまで繋がったとき静雄はもう臨也への怒りや憎しみを失っていた。舌打ち一つと短い別れの挨拶を述べ、静雄は歩き出した。怪訝な目をして呼び掛けてくる臨也にまるで少年漫画のニヒルなライバルのような捨て台詞を残して静雄は振り向きもせずその場を去った。なんとなく臨也に負けたような気分になって静雄はまた舌打ちをした。

 「もしもし、幽?ああうん俺だ。」
 いや別に何があったって訳じゃないんだ。静雄はさっきの光景を思い出して口ごもった。
 「あー、今度一緒に飯でも食いにいかねぇか。」
 ようやく口からその言葉が出たとき思わず手に力がこもった。携帯電話がミシリと嫌な音をたて、静雄はそれにはっとした。
 「あ、ああ、わかった。日曜な。」
 約束を取り付けられたことに静雄はほっとする反面嬉しくなっていた。不意にさっきの兄妹の会話を思い出す。誰にでも、たとえあんなサイテーな奴にとっても家族は敵わない存在なのだ。静雄はそう思ってなぜか可笑しくなった。