※R18注意






スイッチの入る瞬間なんて人それぞれではあるが、ことに福富に関しては全くもってきっかけがわからないと荒北はいつだって思う。
先ほどまで荒北の読んでいた雑誌が彼の腕の下でぐしゃりと音を立てた。
まるで這い蹲らせるように後ろから覆い被さられてベッドシーツに鼻先を埋める。まだこれ全部読んでねえんだぞと責めるように荒北は首を捻って背後の男を見やるが、それもすぐにねじ伏せられてまた彼はベッドに沈んだ。
浮いた頸骨をそぐように福富は歯を立てる。黒いタンクトップの内側に潜り込ませた手でわき腹を撫でると荒北が小さく息を吐くのが聞こえた。シーツにくぐもってはいたがそれの中に明らかに熱っぽい色が混じっているのに気付いて福富は少し気を良くする。そうして軽く首筋を噛みながらゆっくりと手を胸の方へと這わせていった。荒北が小さく押し殺した喘ぎを漏らすまでそう時間はかからなかった。消灯までまだ時間があるからもしかしたら誰か来るかもしれないと、荒北がいやいやと小さく首を振ったのも福富は見ない振りをして、こねるようにして弄んでいた乳首を強く抓れば荒北は思わず、といったふうに上擦った声を上げた。意地が悪いとなじる視線を投げるその目尻にはわずかに涙が浮かんでいる。福富が荒北の体をくるりと仰向けに転がすと、点けっぱなしの蛍光灯が眩しかったのか、彼は長いまばたきをして、それから福富の方へ手を伸ばした。引き寄せられるがままに福富は荒北の舌に噛みつく。犬歯で少し強く噛むと荒北の腰が小さく跳ねたのがわかった。痛いのが好き、とは荒北は一度も口にしたことはなかったが、その辺りに彼のスイッチがいくつかあることを福富は知っている。少し強めに髪を掴んで仰け反らせると荒北の鼻から抜けるように甘い息が漏れた。指で痩せた首を辿る。引っ掻くように爪を立てると、堪えきれずに荒北の口の端から声がこぼれた。その声があんまり甘いものだから、福富はぞくぞくと背筋が震えるのを止められない。唇を離すと名残惜しげに唾液が糸を引いた。もっととねだる荒北の唇に今度はいくつか触れるだけのキスを落として、髪を掴んでいた手で今度は頭を撫でる。指通りのいい髪が指の間を滑っていく感覚が心地よくてしばらくそれを楽しんでいたが、荒北の手が自分のシャツの端を掴んでいることに気が付いて福富は小さく笑う。好きにしていいぞと一度身体を起こして両手を広げればすぐに荒北は福富の身体からTシャツを抜き去って、それから鎖骨辺りを甘噛みする。軽く噛んでは舌がそこを撫でる。くすぐったさに疼くような感覚を覚えて福富が喉を鳴らすと荒北はその顔をのぞきこんで人の悪い笑みを浮かべた。それがなんだかちょっと憎らしくて、福富は肉の薄い腰を掴んで荒北を自分の膝の上へと乗せる。逃がさないように腰に腕を回しながらタンクトップの上から胸に噛みついて、もう片手は荒北の下着の下へ潜らせた。荒北は反射的に腰を引こうとするがそれも許されず、ハーフパンツと下着が乱暴に引き下ろされる。それすら高ぶった自身には刺激となってあっけなく腰が揺れた。先走りを塗り広げるように先端を擦られて、抑えきれなかった声が荒北の喉から漏れる。舌先が布越しに胸の尖りを確かめてくる感覚と竿全体を強く擦られる感触に目の前がちかちかと点滅する。部屋はそういったことをするには明るすぎて、見上げてくる福富の視線がはっきりと見えるのも今の荒北には毒だった。見られたくない、けれど自分だけを見ていてほしい。まとまらない思考の中で荒北はすがるように福富の首に腕を回して、柔くその耳を噛んだ。ハァ、ともアア、ともつかない声が福富の耳元で上がって鼓膜を揺らした。福富の手のひらに粘度の高い液体がこぼれている。吐精の余韻に整わない息を福富の首筋あたりに投げかけながら、荒北は力なくそちらへ体重を預けた。びくりと反射的に荒北が顔を上げたのは福富の手が再び動き出したからだ。さしたる間を置かず、まだ敏感なままのそこを擦りあげられて荒北は福富の膝の上で背筋を大きく仰け反らせる。鈴口をこじるようにして親指で押さえられて頭の中が真っ白になる。意味のない声と涎を口の端から漏らしながら荒北はもうやめてくれと潤みきった目で福富を見るが、それは彼を煽るだけのことだった。
さっきよりか高い声を上げて達した荒北にはもう余裕は無くて、開いた唇の間から唾液が伝って首もとに滴っている。焦点の整いきっていない目と、それから上擦った声で名前を呼ばれては福富も堪ったものではなく少し乱暴な仕草でまた荒北をベッドに転がして、彼はベッドサイドに手を伸ばしたのだった。

行為自体にはもう抵抗なんて無いが(むしろ荒北自身口には出さないが嫌いではない)、けれども元々違った役割を持つそこに指が入ってくる初めの感覚は慣れない。思わずずり上がりそうになる身体を福富の手が腰を掴んで引き留めている。荒北は頭の横のシーツを強く握りしめながら息を殺していた。指が奥を探る。一見慎重そうな手つきではあったが、かき回す動作はいつもより性急で、あちらにも余裕なんて無いのだなと荒北はわずかに笑んだ。一瞬彼が見せたその表情をかき消すように指がもう一本差し込まれる。圧迫感に背がしなった。仰け反った荒北の顎から胸のラインがひどく扇情的に福富の目には映る。首にはさっきの指の痕が残っていた。もしかすると傷になっているのかもしれない。
奥に二本食ませたまま片足を肩に上げるといいところを擦ったのか荒北が小さく声をあげた。指を抜いてから銀のパッケージを口で破って福富は自分のものに被せる。あまりに獣みたいだとは自分でも思いはしたが、もうどうしたって止めようがない。ゆっくりと収縮を繰り返すそこに福富は一息に押し入った。
ぐっと荒北が奥歯で声を殺した。視界がかすんで感覚が狭まっていく。宥めるように福富が荒北の鎖骨から肩にかけてを撫でると浅い呼吸の感覚が少し緩やかになった。荒北は自分に多い被さっている男を見る。彼はいつもよりも随分余裕のない表情をしていた。可愛いなぁと内心思って、一方で自分がこんな顔を彼にさせているのだということに何とも言えない快感がせりあがってくるのを感じた。シーツを握りしめていた荒北の手が自らの口元を覆って、動いていいよォとちょっと笑いを含んだ声で告げる。
少し上擦った声で返事をするが早いか、福富がぐっと腰を引いて動き始めると、荒北の口元から笑みは途端に消えた。喉の奥から自然と漏れる声がひどく耳に響く。今まで確かに真上にあったはずの天井も身体を支えていたはずのベッドの感覚もいつの間にかどこかへ行ってしまった。唇から溢れた唾液が流れていく。動く範囲一杯まで脚を折り曲げられてさらに奥へ押し込まれると身体が浮くような感覚に襲われた。水音がする。福富の硬い腹筋に自身が擦られてたかぶっていく。
もっと、と口走りかけて慌てて荒北は自らの指先を噛んだ。まだそこまで言わされるわけにはいかない。自分のほとんどを明け渡してしまってはいるが、俺にだって少しはプライドなんてものがあるのだ。
指先に、それでも足りなくて手の甲に歯を立てる。声、と低く福富が言ったのに荒北が頭を横に振ると、あやすように福富は腰を緩く揺らした。は、と荒北が息を吐いたのを聞いてからその手を取り、福富はそれを自分の首に掛けさせる。そうして両手ともが自分の首に回ったのを確認してから再び腰を進めて奥を突くと、今度は彼の思う通りに声が上がって福富はたまらないような気持ちになる。まるで支配しているような。狼と呼ばれる気高い男をこうしてねじ伏せられるのは自分だけなのだというたちの悪い独占欲がそこにはあった。同時に腰をつかうたびにやってくる、食われているみたいな感覚に彼は自身も支配されているのだということを自覚する。こいつは俺のもので、俺はこいつのものなのだとお互いに思っているのだからどうしようもない。
ちかちかと目が眩んで、荒北は福富の肩に爪を立てる。わずかな痛みに一層煽られて少し乱暴に福富が腰を回すと、荒北は一層高くないて、それから呂律の回らない口調でふくちゃん、と譫言のように何度も呼んだ。繋がったままキスを交わす。荒北の口内に舌を押し込むようにして唾液を味わう。奥をかき回されるたびにわななく舌を捕まえて絡ませると、荒北は喉の奥でくぐもった悲鳴をあげた。互いに相手の絶頂が近いことをわかっていた。荒北の指が一層食い込むと、福富の動きも速くなる。二人とも相手のことしか見ていなかったし、また一方でその瞬間には相手のことすら見えていなかった。
あ、だめだ、と荒北は一瞬思って身を捩る。次に来るだろう感覚が怖くて、無意識に身体が逃げを打つ。しかしそれを自分の上にいる男が許してくれるはずもなく、腰を掴んだ手に引き留められてしまう。抗っても無駄だと言う代わりに福富は片手で腰を掴みながらもう一方で荒北自身を擦りあげる。急に襲った直接的な刺激にあっけなく達しそうになったのを福富の肩口に噛みつくことで荒北は堪え、焦点の定まりきらない目で福富を睨んだ。意地が悪い。そう声にする代わりに鍛え上げられた首筋に歯を立てる。もうすっかり息が上がっていた。地面が揺れる。縋りついた肩と穿たれた奥だけが確かなものだなんて。金髪が眩しい。頭が熱い。気持ちいい、と無意識に自分が口走ったことに荒北は気付かなかったし、それを聞いて福富が笑みを浮かべたのも知らない。

『コンコン』

荒北が息を詰め、福富の背中にがり、と爪痕を残した。その時だった。

「福、ちょっといいか。」

聞きなれたチームメイトの声にはっとして荒北は目を開ける。応答を待っているらしく、まだドアの前に人のいる気配がする。荒北は慌てて福富を見やるが、彼は荒北を宥めるように首筋を撫でただけだった。鍵は、と小さく尋ねた声にも答えない。怯えたようにわずかに身を竦めた荒北の耳に二度目のノックが聞こえる。

「えっ、」
思わず荒北がそう声に出したのは、ゆっくりとではあるが福富が再び律動を始めたからであった。ぐちぐちとぬかるむ音がして、声を上げそうになったのを福富の肩を噛むことで必死に抑えながら荒北は身体を強ばらせる。まだ外に人がいるのに、鍵は、バレたらどうなるか。途切れ途切れにそんな言葉が浮かぶ。やめろ、一回止まれ、と金髪を引っ張って抵抗してみるが蕩けきった体では彼に及ぶはずもない。それどころか彼のごつごつした手で自身を擦られて声が出てしまって、慌てて口を押さえることになった。
腰の動きは緩やかである。しかし同時に前を刺激されてはたまったものではない。声が出ないようにと覆った手の隙間から声がわずかに漏れている。目も閉じて、どうにか快感を受け流そうとしているのであろう。薄い胸が忙しなく上下している。涙や涎や汗で濡れた頬が赤く染まっているのを眺めながら、福富は背にぞくぞくするような感覚が走るのを覚えた。独占欲、支配欲、嗜虐心。その感覚はどれに当てはまるのだろうか。どれにしてもたちの悪いものだということは変わらないと福富は内心自分に少し苦笑したが、それでも動きを止めることはできないのであった。
くぐもった喘ぎをあげて荒北の背がしなる。福富は指で荒北自身の根本を締め付けて、まだだ、と低い声で囁いた。ひどく苦しくて、けれど頭の真ん中にわずかに残った理性のせいで動けもしなくて。早くどうにかしてくれ、もうどうにでもしてくれていいから、と精一杯の力で縋る。爪がまた福富の皮膚に傷を付け、歯列が食い込みわずかに血を滲ませた。

「福、いないのか?」
再度呼びかける声がして、ドアノブが回される音がする。荒北は身を竦ませ、再び開いた目を瞑る。自分の呼吸音や心臓の音が余計に大きく聞こえる。スプリングが軋んだ音にびくりと身体を震わせると、福富の手が髪を梳いてそれを宥めた。

『がちり』と鍵がドアと壁とを繋ぎ留める音が聞こえても荒北は息を吐くことも出来ず、ぐっと爪先を丸めるばかりだった。軽い足音が遠ざかっていくのをひたすらに耳を澄ませて聞きながら、目の前の男の皮膚をまるで食いちぎらんばかりに噛みしめる。歯と歯の隙間から浅い呼吸が漏れて福富の首筋をくすぐっていた。
それからもう幾ばくもしないうちに二人以外の気配は消える。じっと、ただひたすらに堪えていた荒北はふっと顎の力を抜いて、福富にだけ聞こえるぐらいの小さな溜息を吐いた。

「あっ」と荒北が声を上げたのは次の瞬間だった。
せき止められていた根本からいつの間にか離れた指が今度は竿全体を擦り始める。緩やかだった彼の腰の動きは早くなり、思うままに突かれる。急激な刺激に抑えることすら出来なくてされるがままに声が漏れる。ちくしょう油断した、と頭のどこかで思ったが舌打ちすら喘ぎになって言葉になんか出来るはずもない。荒北は福富を見る。視線が合ったその瞬間に福富はふっと目元を緩め、それから荒北の鼻先を甘く噛んだ。
自分でも馬鹿みたいだなんて思うが、福富のその表情が荒北はどうしようもなく好きなのだ。獲物を捕らえて食らっているときの、満足げな獣の顔だ。ねじ伏せられて、好きに扱われて、少し悔しいとは思う。けれども食われているときのその感覚も、その時の彼の目も自分だけのものだと思うとそんなことはどうだっていいと思ってしまうのだ。

「荒北、」
福富がそう呼ぶと荒北は従順に舌を出す。
これは俺だけのものだ、とどちらからともなく唇に噛みついた。



【Bite:(動物・人が)噛む、噛み付く[原義:切る、突き刺す]】